発達障がい・療育について

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発達障がいとは

発達障がいとは、①生まれつきの脳機能の障がいにより、②低年齢から様々な特性があらわれ、③それによって生活に困難が生じている状態です(特に困りごとがない場合、”障がい”ではないとされています。)。医学的な診断名としてはASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、SLD(限局性学習症)などがありますが、それらの総称として発達障がいと呼ばれています。日本では発達障がい者支援法によって定められています。

二次障がいに至ることも

発達障がいは一見して分かりにくいことが多く、周囲からは「努力不足」「わがまま」「しつけができていない」など周囲から理解が得られない場合も多々あります。ですがご家庭の育て方や環境などが原因ではありませんし、本人にとってはどうしようもない事がほとんどです。 発達障がいをもつ子は特性それ自体から生活や学習、対人関係などに困難を抱える事が多いのですが、それに加え、例えば他の子が簡単にできることができなかったり、周囲から理解されず心無い言動を投げかけられることで「自分はダメな人間だ」と思い込み、自己肯定感が低くなったり、不安症やうつ病など、二次障がいの発症に至ってしまう場合もあります。

早期からの療育や、特性の理解が大切です

現時点では発達障がいの特性そのものを治す方法は確立されていませんが、特性からくる困難や生きづらさ、二次障がいについては、特性の理解と適切な対応(=療育)によって和らげたり、予防することが可能です。重要なことは、早期に適切なサポートを行っていくことです。療育ではお子さんそれぞれの特性を丁寧に把握し、①お子さん自身へのトレーニングと、②周囲の環境整備、という2つの視点から適切な方法で支援していきます。早期療育が重要ではありますが、何歳になっても”遅すぎる”ということはありません。今日からできることを始めていきましょう。

発達障がいの主な症状

ASD【自閉スペクトラム症】
  • 社会性の困難(感情の共有や意思疎通が苦手、目を合わせない、表情が読み取れない等)
  • こだわりの強さ(特定のものに強い興味関心、特定の手順や自分のペースを乱されることがストレス等)
  • 感覚の過敏/低反応

コミュニケーションの困難さが注目され”社会性の障がい”とされていますが、感覚過敏などから身体症状に悩まされている方も多く、広い視点を持った支援が必要です。 以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「特定不能の広汎性発達障がい」など含め「広汎性発達障がい(PDD)」と呼ばれていましたが、2013年に診断基準の改定で「自閉スペクトラム症(ASD)」として診断名が統一されました。

ADHD【注意欠如・多動症】
  • 集中力がない・忘れっぽい(不注意)
  • じっとすることができない(多動性)
  • 思い付きで行動してしまう(衝動性)

上記のような特徴があり、大きく①不注意優勢型②多動・衝動優勢型③混合型に分けられます。 また、神経伝達物質(ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン)の働きが不足気味のため、「頑張れない、集中できない、やる気がでない」という状態になってしまうこともあります。睡眠障がい(日中の強い眠気、入眠困難、過眠、起床困難等)を抱えることも多く、その面でも生活に困難が生じる可能性があります※。周囲の理解と環境整備が必要です。 ※2020年8月に浜松医科大学が「ナルコレプシーとADHDの遺伝的関連性」についての研究をTranslational Psychiatryに発表しました。

SLD【限局性学習症】
  • 読み書き障がい(読めない)
  • 書字障がい(書けない)
  • 算数障がい(計算・推論ができない)

医学の診断基準では上記のような特徴があります。それとは別に文科省の判断基準もあり、「読む、書く、話す、聞く、計算、推論の困難が1つ以上存在し、6ヶ月持続している状態」でも支援が必要とされています。知的な発達に遅れがない場合が多いです。原因は様々で、音韻の力に課題がある、不器用さ、視覚過敏、ワーキングメモリの低さ、等様々あります。お子さんの課題に沿ったトレーニングをしていきます。 学習障がいの傾向がみられる場合、学校での勉強についていけないことから自己肯定感が低下したり、不登校や非行という二次障がいに繋がりかねないため、早期の支援が必要です。

発達障がいの療育方法

ソーシャルスキルトレーニング(SST)

SSTとは「Social Skills Training(ソーシャルスキルトレーニング)」の略で、対人コミュニケーション、対人関係など社会生活に必要になる部分をトレーニングします。ここで言う「ソーシャルスキル」とは、「生活・社会技能」などと訳され、「ソーシャルスキルトレーニング(SST)」とは、対人関係や社会生活を営むために必要な技能(=スキル)をトレーニングし、習得していく事を指します。多くの人は世の中にある「こうすべき・しないべき」と言った、暗黙のルールを頭の片隅に置きながらコミュニケーションをしたり行動をします。ただ、そういった事を教わらなかった場合や、発達障がいの特性により暗黙のルールを理解する事が難しい子がいます。そういった子どもは不適切な言動をしてたりして場になじめなかったり感情的になるなど困難を抱えてしまう事が多々あります。SSTでは、そのような困難を抱える子どもに対し、学校や友達間など社会生活を円滑に行うことができるようなトレーニングを行います。学習やロールプレイだけでなく、ゲームなどもしながら楽しく学んでいく事も可能で、「人の気持ちが理解しやすくなる」「人の気持ちを察しやすくなる」など、社会生活が送りやすくなる効果が期待できます。

応用行動分析(ABA)

応用行動分析学(Applied Behavior Analysis:ABA)とは、心理学者のバラス・スキナーによって体系化された「行動分析学」を、臨床場面や社会一般のさまざまな問題行動の解決に応用しようとして生まれた理論体系です。”行動の前後を操作することにより行動を増やしたり減らしたり出来る”という原理を利用し、発達障がいのお子さんのいわゆる問題行動を望ましい行動に変容していく療法です。アメリカでは自閉症児の早期療育法として浸透しており、多くの州で保険適用されています。
ABAではお子さんの気持ちや行動の原因を、①きっかけ→②行動→③結果という枠で分析します。例えば①お菓子を見る(きっかけ)→②泣いて暴れる(行動)→③お菓子を買ってもらえる(結果)という具合です。この「②行動」を変容するために、「①きっかけ」や「③結果」を変えていきます。またABAの基本的な考え方として、環境と個人のお互いの作用が行動や感情を形づくると考えます。そのため、個人だけではなく、その周囲の環境(物・人)にもアプローチします。例えば、感覚刺激に敏感な子が学習に集中できない場合、部屋の色や音を減らしたり、周囲の人も会話や行動を変えることで望ましい行動を引き出します。
ABAは行動の変容を促すものですが、”大人にとって望ましい行動”に変えるためのものではあってはならないと考えます。あくまでもお子さんの生きづらさを解消するため・お子さんが生活しやすくなるための行動変容であり、お子さんに負担が少ない行動を目標設定すべきです。

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